名曲探偵アマデウス#86 ブラームス「クラリネット・ソナタ第1番」 [ドラマ]
ブラームスの「クラリネット・ソナタ第1番」を取り上げた今回は、宮崎美子がゲストということで、往年のあれ、則ち『今の君はピカピカに光って』をネタに使った物語でした。(「風のハルカ」のアスカさんの伯父さんの奥さんとカノンさんとの出会いというネタには走らなかったですね。)で、昔の宮崎美子のグラビア写真がいくつか劇中に登場させ、しかも所長がそれに強く反応しているという所がポイントでした。(所長の世代を考えると、なるほどという設定ですね。)
で、いつもと違った所長の姿が見られたということで、これはこれで面白い物語でした。(カノンさんはおとなしめでした。)ただ、今回の所長は、何処にでもいるようなオヤジになっていたと言った方がいいですね。
冒頭、事務所でエアロバイクを漕ぎながら、両手にはダンベル(水を入れるもの)を以てトレーニングをしている所長。そんな所にカノンさんが外出から戻って来ると「どうしたんですか、所長?」と驚いていた。そして「そんなに動いたらお腹が空くだけですよ...」と口にする。(カノンさんらしい発想ですね。これまでにもこういうことを何度も口にしていますし...)これに所長は、40歳を超えると筋肉は毎年0.5%ずつ衰えていくと言われている、と語り、体を鍛えて筋肉を維持するのも名曲探偵の心得の一つ、と語り、運動を続けていた。そんな所に依頼人がやってきて「名曲探偵さんはこちらでしょうか?」と言う。で、カノンさんが対応する。で、相談があるという依頼人は「江藤リサと申します」と名乗った。すると運動をしていた所長が反応し、運動を止めて振り返った。
依頼人を目にすると飛んでいき、カノンさんを突き飛ばし、依頼人に「私、所長の天出臼夫と申します」と丁寧な挨拶をした。で、「一世を風靡した元グラビアアイドル・江藤リサさんとお会い出来るなんて、名曲探偵冥利に尽きるというものです」と態度が変わった。彼女は電撃結婚で突如芸能界を引退したと説明する所長に「25年も前のこと」と話す依頼人。で、「もう一度グラビアで勝負したい」と話す。で、話を聴く所長。
リサは、グラビアのカリスマト呼ばれた巨匠カメラマン(カゲヤマゲンゾウ)の撮り下ろし写真集を出版したいというのだった。また、ここだけの話と言って、離婚したと語り、写真集を芸能界復帰の新しい出発点にしたいというのだった。覚悟は出来ていると話すと、所長の頭はその妄想で満ちて、人が変わっていた。リサのデビューもカゲヤマだったが、彼は既に一線を退いていた。しかし、彼でないとダメと言う依頼人。カゲヤマに電話したらいつも留守電で、そのBGMが変わったという。で、電話を掛けて所長に聴かせる。それを聴いた所長はブラームスの「クラリネット・ソナタ第1番」だった。リサはこれにメッセージが隠されていると言い、その謎解きの依頼をした。(当然、所長は喜んで引き受けた。)
かつてのグラビア写真を見るカノンさん。(本当に昔の宮崎美子のグラビア写真です。しかも、江藤リサの歩みはその時の宮崎美子とまったく同じということを語っていた。尚、「あれから30年」とここでは言っていたが、宮崎美子のグラビア写真が話題になったのは1980年のことであって、31年前になります。)何としても復活したいという依頼人の話を受けて、まずは第1楽章から。
とりとめのない不思議な曲ということで、その解説から始まる。メロディ(音程)が上ろうとするが直ぐに降りていくという構成の繰り返しとなっていて、盛り上がろうとしても長続きしない。これはブラームスの最晩年(死の3年前)の作品で「枯淡の境地」と言う。また、当時、ブラームスは親しい人が次々と亡くなっていき、孤独感にさえなまれ、情熱を失っていた。
ということから、カゲヤマはグラビアを撮る情熱を失っているのでは?と考えた。これに依頼人は「もう若くはない」と言うが、所長は「それはどうですかね」と言い、「カメラマンをときめかす女性の魅力は、はち切れんばかりのグラマラスボディとか、ぴちぴちした肌だけなのか」と言って、依頼人をフォローしていた。
で、第2楽章へ。ここはけだるく漂う印象を受けるということで、その説明へ。ここではピアノとクラリネットの音が半小節ずれている。(ビアノの最低音が前にずれている。)これによって不協和音となる。素直な位置だと余りにも単純すぎる素直な音になる。(いつものように聴き比べがありました。)これで漂うような感じとなる。更に弱音には繊細な指示がある。(ピアノ、ピアニッシモ、ピアノ・ドルチェなどの指示を事細かに付けている。)これが繊細な世界を生み出し、これが心の微妙な揺れを表現している。しかし所長は「それなら年令とは関係ない」と言い、「いくつもの喜びや悲しみを経験した人間の方がより魅力がある」と語った。すると「熟女こそ絶好の被写体」とカノンさん。(依頼人の表情が明るくなるが、カノンさん、依頼人を上手く持ち上げました。)
依頼人は、それなら何で電話に出てくれないのか?と言う。所長は、この曲はブラームスと一人の演奏家との出会いによって生まれた、と語り、今度はこの曲が生まれた背景についての説明へ。
この曲はブラームスが61歳の時に作曲された曲であるが、その数年前にブラームスは年を取りすぎ、引退を決意していた。が、リヒャルト・ミュールフェルトというクラリネット奏者との出会い、彼のために曲を作ろうと思い、作曲したのだった。そして、クラリネットの特徴を最大限活かしている、と語られる。(調を選び、広い音域を活かして音色が最も引き立つ所(最低音を何度も使っている。)を使っている。)
そして、1985年の初演の時、ブラームスとミュールフェルトの2人で演奏し、絶賛を浴びたのだった。で、カゲヤマに情熱を取り戻させるにはミュールフェルトのような特別な才能を持った人が必要だと感じた依頼人は「私なんかじゃだめ」と言って落ち込んだ。が、所長は「あなたにミュールフェルトのような人間になって欲しいと訴えているのかもしれません」と言う。(なかなか上手い言い方で持ち上げますね。)しかし依頼人はこれを笑い飛ばし「なれっこない」と言った。
で、第4楽章に持って行く所長。「楽しそう」と感想を言うカノンさん。所長は「ここにこそ音楽の本当の喜びがある」と言う。そして、この部分の仕掛けについての解説へ。
ここではピアノとクラリネットのメロディが、主役と脇役という立場を入れ替わり立ち替わりになり、更に旋律を両者が分担して奏でるというように、両者の絶妙なアンサンブルとなっている。ということで、2つの楽器の掛け合いは、「聴衆のためではなく、自分たちが楽しむために書いた」という曲だった。で、所長は(リサのかつての写真集は)ただ写真を撮るという純粋な喜びがあった、と言う。すると依頼人は、そのグラビアを撮ったときのことを思い出して語った。「本当に楽しかった」と言い、売れたいとか、綺麗に撮って欲しいという思いは全くなく、カゲヤマに撮られる喜びを全身で感じていたと言う。所長は「そして彼も、あなたの圧倒的な魅力に惹かれ、無我夢中でシャッターを切った」と語る。すると依頼人は、「あの時は2人とも写真を撮ることに純粋な喜びを感じていたから、結果的に成功した」と気づいた。所長は「つかぬ事」と断ってから「モデルとカメラマンという関係だったのか?」と尋ねる。それはブラームスがある女性に当てた謎の言葉「蛇が尻尾を噛んで輪は閉じられた」という言葉を持ち出し、この言葉がブラームスの心からのメッセージだったとして、その説明へ。
この言葉は物事が完結することの例えとして使われてきた言葉である。で、ブラームスが生涯愛し続けた女性というのは師と仰ぐシューマンの妻のクララだった。(これに関する説明は、以前のブラームスの曲を取り上げたときにも語られていましたね。)
また、この曲にはクララを象徴する旋律(「クララのメロディ」)が使われている。しかも「クララのメロディ」は元々はクララが作曲したメロディであり、シューマンが自分の曲でしばしばこれを引用していた。(例えば「トロイメライ」と言って、それも紹介されるが、野本先生の説明はいつものことながら分かりやすいです。)また、シューマンの愛弟子・ブラームスも一番最初に出版した作品である「ピアノソナタ第1番」の中でクララのメロディを使っている。(これも野本先生が弾いてくれました。)そしてそれを最晩年の作品でもう一度出てきている。そしてこの楽譜をクララに送り、「蛇が尻尾を噛んで輪は閉じられたのです」と記していた。そしてこれはクララに対する変わらぬ愛情の気持ちを偲ばせていたのだった。
で、所長は「リサを撮ることでカゲヤマゲンゾウのカメラマン人生の輪を閉じることが出来る」と伝えたかったと語った。カノンさんは「カゲヤマ山河ブラームスで、江藤さんがクララ」と口にした。そして「もしかしてカゲヤマさん…」と言うが、依頼人がそれを遮るように「逆です」と言って「私がカゲヤマさんのこと、愛していたんです」と告白した。(所長が「衝撃の」と言い、カノンさんが「告白!」と言っていたが、ここでは漫才コンビになっていた所長とカノンさんの息も合っています。)
所長は、この曲のメッセージを開けたあなたからの電話を待っているはず、と言うと、依頼人は携帯を取りだしてカゲヤマに電話を掛けた。で、「ただカゲヤマに撮って貰う喜びを味わいたい。でないと蛇の輪は閉じられないですよね」と伝えると電話を切った。
今回は、ドラマ部分は約36分半強、曲が6分半弱、ラストのオチが1分弱という構成で、ここ最近の物語ではラストのオチ部分がやや短めでした。尚、曲の部分は第1楽章と第4楽章ということでした。(時間的にはダイジェストにならざるを得ないですし...)
ラストのオチは、所長が外出から帰ってくるが、カノンさんに気づかれないようにそっと戻って来る。カノンさんがいないことを確かめると、お腹に隠していた依頼人の写真集を取り出し、ソファーに座ると、鼻の下を伸ばして見始める。で、所長はそれに興奮して、「こうだ」と良いながらポーズをとり始める。そんな所に、ソファーの陰に隠れていたカノンさんが顔を出し、「所長、何買ってきたんですか?」と尋ねた。所長はポーズを止めて、何事もなかったように「響くん、そんな所に隠れていたのか」と良いながら写真集を手に、ソファへに座った。カノンさんは「私にも見せて下さい」と言って所長に迫るが、「嫌だよ」と言った所長は立ち上がり、事務所の中を逃げ回る。カノンさんはそれを追いかける。「見せないよ」「見たい」と言い合い、逃げる所長と追いかけるカノンさん。途中で所長は写真集を置き、カメラを手にした格好をして「響くん」と言ってカノンさんの方にカメラを持ったふりをして撮影するポーズをする。これにカノンさんはモデルとなってポーズをとる。で、逃げる所長と追いかけるカノンさん。所長がカメラを向けたふりをするとカノンさんはポーズをとり、それを繰り返していた。
今回は、宮崎美子のあのグラビアを元にした物語ということで、所長の世代の心を揺さぶる物語となっていたが、時にはこういう物語も良いですね。(そう言えば、ファイルNo.010でシューマンの「こどもの情景」を取り上げた時のゲスト・斉藤由貴の時も、今回のようにゲストに因んだ物語となっていたが、その時のシューマンと今回のブラームスとの間に師弟関係があるなど、そこまでの繋がりを考えた物語と思えば、実に凄い計算ですね。)
ただ、今回はカノンさんが目立つ所が全くなかったのだが、逆に言うと「助手」という役割に徹していたということにもなる。実際、依頼人を持ち上げようとする所長に上手く追従するというように、所長と抜群のコンビネーションを見せていましたし...
また、宮崎美子のあのグラビアというと、斉藤哲夫の『いまのキミはピカピカに光って』とセットになるのだが、一応ラストのオチの所でこの曲をバックに使っていたので、細かい所にも気を配っていましたね。尚、所長がラストでカノンさんにカメラを持ったふりをしていたが、この時、カメラを持ったふりをするのではなく、実際にカメラ(言うまでも無く、ミノルタの一眼レフカメラのX-7)だったら、今回の物語は元ネタを完璧にと言うことになったのですが...(宮崎美子+『いまのキミはピカピカに光って』=ミノルタのX-7のCMです。)→所長の世代ならばX-7を現在でも持っていても不思議ではありませんし、そこまでやってほしかったですね...
来週21日はファイルNo.087のチャイコフスキー(現時点では曲名は不明)ですが、今月の新作は底までです、(2/28は何かの再放送となっています。)BS-hiというチャンネルがあるのは3月一杯ですが、あと何本の新作があるのでしょうかね?3月も3本の新作があって、ファイルNo.090まで届いて欲しい所です。(4月からはBSプレミアムで4年目に突入してくれることを願っています。)
(2/15追記)
2/21はファイルNo.087のチャイコフスキーの「バイオリン協奏曲」です。
また、BSプレミアムの全曜日の19:00以降と深夜枠に「名曲探偵アマデウス」の名前がなかったということで、4年目突入はなしということですかね...(まだ、日曜以外の08:00~19:00、日曜日の18:00より前という時間帯の可能性は残されていますが...)
- アーティスト: ライスター(カール),ブラームス,デムス(イェルク),ボルヴィツキー(オトマール),ヴァーシャーリ(タマーシュ)
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
- 発売日: 2003/11/26
- メディア: CD
ブラームス:クラリネット・ソナタ第1番、第2番/クラリネット三重奏曲
- アーティスト:
- 出版社/メーカー: 日本コロムビア
- 発売日: 2011/03/02
- メディア: CD
ブラームス:クラリネット・ソナタ第1番, 第2番(ベルケシュ/ヤンドー)
- アーティスト:
- 出版社/メーカー: Naxos
- 発売日: 1997/03/01
- メディア: CD
ブラームス:クラリネット・ソナタ集 (Hybrid Disc)
- アーティスト: オッテンザマー(エルンスト),ストラヴィンスキー,メシアン,ズーターマイスター,ブラームス,ヴラダー(シュテファン)
- 出版社/メーカー: オクタヴィアレコード
- 発売日: 2006/05/24
- メディア: CD
- アーティスト: ブラームス,ウラッハ(レオポルト),バリリ(ワルター),デムス(イェルク),コッホ(フランツ),ホレチェック(フランツ)
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
- 発売日: 2001/11/28
- メディア: CD
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