ULTRAVOX『VIENNA』 [音楽(洋楽)]
以前に彼らのベスト盤を取り上げたことがあった(こちらです)が、今回は彼らの出世作となった表題の名盤を個別に取り上げることにした。今でこそ、シンセサイザーを中心とした所謂「エレ・ポップ」というものは一般化しているが、彼らが出てきた頃と言えば、シンセサイザーを使ったサウンドと言えば「テクノ」と呼ばれることが多く、まだ異質のものであった。が、彼らを始め、いくつかのグループが競い合い、シンセサイザーを中心とした新たなサウンドが浸透していき、いつしかシンセサイザーが無ければ成り立たないようにまでなったが、これは彼らをはじめとする先駆者たちの功績によるものである。そんな中、表題のアルバムはこの手のジャンルの創世記において、また後の音楽シーンに対しても多大な影響を与えることになるアルバムである。尚、筆者が所有している本アルバムは欧州版であって、ボーナス・トラックの無い全9曲が収録されたものである。
まずはインスト・ナンバーの『Astradyne』が約7分という時間を駆け抜けていく。ポップであり、またロックの要素もあり、無機的な機械音(シンセサイザー)が艶を持って輝いている聴き所の多い一曲である。続く『New Europeans』はエレクトリック・ロックという一曲で、DURAN DURANなどのニュー・ロマンティック派のサウンドであり、聴きやすい一曲である。そして、第二次ブリティッシュ・インベージョンの波にも乗って一気にメジャーの仲間入りを果たすことになる。続く『Private Lives』はメロディアスなイントロからエレクトリック・ロックというサウンドに変貌してパワフルに展開される一曲であるが、全体的にポップな部分もあり、聴きやすい一曲でもある。
続く『Passing Strangers』はニュー・ロマンティック派と言われるにピッタリというエレクトリック・ロック・チューンであり、ノリの良い一曲である。続く『Sleepwalk』も同じ傾向のサウンドであるが、こちらはかなりアップテンポなリズムに乗ったロックのビートが利いた一曲である。続く『Mr. X』はややスローなテンポのシンセサイザーを中心とした、ちょっと幻想的なイメージを醸し出している一曲である。こういう雰囲気を出すには無機的なシンセサイザーの音がピッタリであり、そこには人間の感性をも支配してしまうスケールの大きさがある。また、この曲は6分半という大作でもあり、たっぷりとその世界を味あわせてくれる。続く『Western Promise』は前曲のラストの部分からシンセサイザーのリズムを取るビートがブリッジされて、ノン・ストップで続く立ち上がりのシンセサイザー全開の一曲である。
そして、ここにきてようやくアルバム・タイトル・チューンである『Vienna』が満を持して登場となる。(ベスト盤を取り上げた時にも記したが、)ベースのサウンドが何処か心臓の鼓動音を思わせるゆっくりとした落ち着いたテンポが後半になると上がり、変化に満ちたサウンドが堪能できると共に、その澄んだサウンドとても魅力的な一曲であり、音楽シーンに残る名曲である。そして、ラストで締めてくれるのが『All Stood Still』であり、エレクトリック・ロックというテンポの良いサウンドの一曲でありながら、ポップな部分もあるダンス系のサウンドでもある。
ところで、シンセサイザーによる幻想的なサウンドの曲を2倍速や3倍速で再生して聴いてみると、不思議なサウンドが得られることが多い。不思議なサウンドというのは、だいたい2種類のものであり、一つは昔から世界各地にある民族音楽であり、もう一つは宗教音楽である。これは彼らだけでなく、何故か他のアーティストたちのサウンドでもこういう部分がある。民族音楽や宗教音楽というのは、それぞれ長い歴史があり、色々な時代を経ることでもまれてきて、現在までも受け継がれてきたものである。そういう音楽を元にしたということは考えにくいが、20世紀が生み出した機械テクノロジーの象徴でもあるシンセサイザーが生み出すサウンドが、全く機械的な要素を感じさせない音楽に通じているというのは面白いところである。(まあ、これはお遊びでやってみたことなんですが...)
'80'sサウンドを語る上で「彼らの『Vienna』は忘れることの出来ない一曲である」とベスト盤を取り上げたところでも記したが、本アルバムはその『Vienna』を中心としたベスト盤とは違ったサウンドの柱がある一枚でもあり、こちらも耳にしていただきたい一枚である。
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