カルピス・ドラマスペシャル「水っぽかったカルピス」 [ドラマ]
毎年7/7に放送されるカルピス・ドラマスペシャルだが、BS-TBSと社名が変わっても、しっかりと製作、放送してくれました。(今年は第6作になります。)しかも今年はカルピスが発売されて丁度90年ということです。
今年は、去年以外の4作の監督の鈴木浩介監督が戻ってきて、脚本は去年に続いて篠崎絵里子の連投、主演は大杉漣ということになったが、「ケータイ刑事ファミリー」の滝本ゆにさんが出演していました。(「ケータイ刑事ファミリー」の出演は3年連続4作目です。)原作は、いつものとおり、カルピスにまつわるエッセー集の同名タイトルの作品でした。
流石に6本の一挙放送となると、時間的にも3時間枠が必要になるため、そういうことはなかったが、2年前は4作一挙放送を行っているだけに、またまた第1作から再放送して貰いたいところです。
ところで、今年の作品は去年までの作品と違ったのは、ドラマ本編の時間が1分短くなって、26分になったことですね。(また、番組プレゼントもありました。)1分短くなったとは言っても、地上波で放送するには、これでもCM占有率が低い数字になってしまいますが...
このシリーズは、毎年のことだが、派手な所は一切なく、カルピスを劇中に登場させて、それにまつわる小さな物語であるが、心温まる物語であって、内容のある作品である。で、カルピスを用意して、ドラマを見ながら飲めば、一段と物語に入って行くことが出来る。(当然、今年もカルピスを用意して、視聴した筆者です。尚、今年はタイトルにあるように、いつも以上に薄めていました。(4~5倍が普通であるが、今年は10倍ぐらいにしました。))食糧難の時代と現代では余りにも時代背景が違っているものの、このようにドラマ内に近い状態のカルピスを口にしたことで、主人公の気持ちもより分かることになりました。(毎年、これを体験したいためにカルピスを用意しておきます。→手っ取り早く体験するのなら、直接飲む「カルピスウォーター」でも良いでしょうが、今年は「カルピスウォーター」でも、更に水で薄めて飲んだ方が良いですね。)
38年間務めていた会社を定年退職した中村新二郎。これまで「仕事が忙しい」と言って、何事も妻・美保子に任せきりという生活をしていた。第二の人生のスタートとして、光穂子と旅に行くことを計画した新二郎だったが、娘から、母は離婚を考えているということを言われた。
旅先で列車に乗って別所温泉に向かったが、その途中の八木沢という駅名を耳にした新二郎は、突然列車を降りて途中下車をした。美保子は色々と言って駅で待つと言い、新二郎は一人で寄りたい場所に向かうことにした。(結局、美保子も新二郎の後を追っていきますが...)
新二郎が向かったのは、戦争末期にこの地に疎開していて、その時に助けられた恩人の所だった。辿り着いたと所は小さな食料品店だった。(当時は農家だった。)店主に訪ねてきた訳を語るが、尋ね人は既に亡くなっていた。店主は尋ね人の息子であり、一人娘と共に暮らしていた。店主夫婦は新二郎の話を聞いた。
戦争中、東京の家が空襲で焼け、遠い親戚がいるこの地に疎開してきた少年だった新二郎と母は、食べ物が無く困っていた。米を分けて欲しいと回った農家の一軒がこの家で、その時倒れた母を介抱してくれて、更に一杯のカルピスを飲ませてくれた。(瓶に残った僅かな量だったため、水が多くて薄いカルピスだった。)そして、その時口にしたカルピスがとても美味しくて、新二郎にとっては命の水だった。
店主も色々と苦労してきて、この店をやってきたが、妻の支えがあってここまでやってこれたことを語った。
店を出て温泉に向かった新二郎と美保子。駅の待合室で、新二郎は、旅行から帰ったら家を出ることを決意して、美保子に初めて「ありがとう」と口にした。が、美保子は「遅い」と言うだけだった。
そんな所に、店主の娘が新二郎を追いかけてやってきた。父から渡すように頼まれたという紙袋を渡すと帰って行った。紙袋の中には1本のカルピスとメモが入っていて、メモには「また今度、ご家族でお寄り下さい。 良いご旅行を。」と書かれてあった。それを見た新二郎と美保子は、夫婦のあり方を教えられたと思ったのだった。そして新二郎は、夫婦のこれからの人生について、旅館に着いたら美保子と話し合う決心をした。
戦時中の疎開先という貧困の中で口にした一杯のカルピスによって家族の形を教えられたが、長い社会人生活でそれを忘れて年月が過ぎてしまい、今、離婚によって家族が崩壊する所に来ている初老の夫婦が、家族としての再生を決意させることになったのがまたもカルピスであり、ちょっとした偶然からそれが始まるという心温まる物語でした。新二郎の姿は、(誰でも)自分の将来の姿になりかねないものであり、当たり前のことであるが、忘れがちになっている家族を大事にするという基本的なことを改めて教えてくれる良い物語でした。
いつも以上に薄くしたカルピスは、劇中の新二郎少年が口にした状況とは違うものであるが、食糧がない時代ということを考えたら、例え薄くても貴重品であり、贅沢品でもあるカルピスとなるだけに、実に大事なメッセージが感じられました。
今までの5本の作品と同様に、カルピスがメッセージを持っているというのは今年も同じでした。また、劇中で昔の時代(今回は戦争末期の1945年)が出てくるのも、このシリーズではお馴染みであるが、物語の舞台となった場所が持っているノスタルジックな雰囲気も良く、第1作の「はじめての味」に通じるものを感じた作品でした。
来年も期待しています。
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